「銚子うめぇもん物語」 14&15ページ 花鯛料理 「お食事茶屋 膳」 長谷川オーナーご夫妻 駅前の名物おしどり夫婦が名物料理を作った 白い酢飯に淡い緑のキャベツを挟み、薄い紅を帯びた花鯛をのせる… 「膳」の「花鯛寿司」は、お皿やパッケージに頼らずともその一品だけで美しく心惹かれる。 料理人にとっては、そういうことはあたりまえなのかもしれないが、私は何故かそれが気になっていた。 花鯛寿司を作るのは、長谷川さんご夫妻の勉さんの方だ。 実は勉さん、初めから料理人を目指していたわけではない。 学生の頃は、ドラマや映画の制作に興味があり勉強をされていたそうだ。 もしかしたら、花鯛寿司が人の目を引きつけメッセージ性を感じさせるのは、 そういった勉さんの物を創り出す時の感性が活かされているのかもしれない。 では、その花鯛寿司はどのようにして生まれたのだろうか。 店でも銚子であがった魚にこだわってメニューを考えられているのだが、 更にお土産にも地場産品を取り入れたいという思いがあった。 銚子の産品と言えばいろいろあるのだが、 そこで花鯛とキャベツを選ばれたところに長谷川さんの思いが込められている。 3年前の開発当初、奥様の政代さんは素材選びに奮闘されていた。 それもそのはず、銚子は農水産物に恵まれた土地柄、素材はたくさんある。 そんな時ふと脳裏に甦ったのが、子供の頃身近にあった光景だったそうだ。 近所にあった釣り宿は、いつも花鯛の釣り客で賑わっていた。 花鯛は酢漬けにしたり、おつゆに入れるとよい出汁が出てとても美味しいのだが、 小ぶりの魚でもあるし、骨も太く、なかなか調理しづらい手間のかかるものだった。 それで、味も好く色もきれいで漁も多いにも関わらず、昔から影に隠れた存在だったのだ。 そんな花鯛が子供の頃から身近に存在し、食していた政代さんにとっては、 産品料理の食材としてはとても愛おしく感じられたのかもしれない。 そしてもうひとつ、銚子の大地に淡い緑色の絨毯を敷いたように広がるキャベツ畑。 政代さんの生まれ育った高神のキャベツは、 太平洋からの潮風と温かな陽光に恵まれ、柔らかくて味が濃い。 豊かな感性の奥様が見出した銚子の素敵な食材を、 ご主人の創造力で形にした「花鯛寿司」はやっぱりただものではなかったのだ。 このご夫婦、お仕事中は勿論一緒。そして、趣味も同じバレーボールなのだそう。 毎日朝から晩までほとんど一緒に過ごすということだが、喧嘩にはならないのだろうか… と、聞く方が野暮でした。名実ともにおしどり夫婦ということだ。 そんな無駄話をしていたら、夕方5時の開店を待たずにお客様が入って来た。 通りすがりの年配の男性が、家へのお持ち帰りで「花鯛寿司」を注文。 勉さんは、静かに厨房へ入って行き黙々と調理を始めた。 すると続いて、旅行者風のシルバー世代のご夫婦が扉を開けた。 「もう、やってますか?」 「はい、いらっしゃいませ。どうぞ。」 と、快く答える政代さん。 開店時間より少々前でもあるし、直前までインタビューをしていたこともあり、 きっと開店準備万端というわけではなかったのかもしれない。 でも全く慌てた素振りを見せず、お客様に話しかけながら作業に入る。 「観光ですか。もうお帰りなんですか?」 「はい。歩いてあちこち回って来ました。」 「六時半の特急ですか。」 そんな会話をしながら、お茶の支度をしたり、ストーブに火を入れたり、注文をとったり… 女将なんだなぁ〜と、改めてその流れるような動きに見とれてしまった。 政代さんがさり気なく訊いた電車の時間に合わせ、 カウンターの向こうでは勉さんが黙々と調理をしている。 政代さんの銚子観光案内で、お客様との会話も弾む。 暫くすると、勉さんの料理が次々と出され、正にご夫婦の連携プレーだ。 銚子の駅前は、やっぱり歩くにかぎるのかもしれない。 あの通りすがりの男性のように、そして観光で訪れたご夫婦のように、 ふと立ち寄った「膳」の「花鯛寿司」ばかりでなく、 それを創り出した名物おしどり夫婦との出会いがあるのだから。 私も次回はゆっくりと、食事に伺ってみたくなった。 その時は忘れずにご夫婦それぞれのバレーボールでのポジションを聞いてみよう。 リポーター: 阿尾 希世美(銚子うめぇもん研究会会員) リポート日: 2010年2月22日 <店舗データ> 住所: 〒288-0044 銚子市西芝町14−2 電話: 0479−23−5730 営業時間: 12時〜14時/17時〜22時 日曜定休 地図座標: 北緯35度73分2秒〜35度73分1秒/東経140度82分78秒〜140度82分79秒 http://chaya-zen.com/